雨の匂いだ。
濡れた土や草木の匂いが混じり込んで、
窓の隙間を通り抜けて部屋の中に入り込む。
 
昼間だというのに空は鈍い灰色の水彩絵の具を溶かし、
どんより曇っている。雨は降り止むこともなく静かに降り続く。
 
 
「・・・また何処かに消えちゃってるし」
 
 
不満げに呟くと亜莉子は窓から目を離した。
 
雨だというのに猫は部屋にいなかった。
 
以前にチェシャ猫にどこへ行くの、と問えば
アリスは本当に聞きたいのかい?なんてはぐらかすし。
 
別にチェシャ猫がどこに行ったかが心配という訳ではなく、
どうせあの猫の事だからずぶ濡れで帰ってくるに違いないのだ。
叔父さんに怒られるのは私なんだから。猫って本当に勝手よね。
 
猫の不満を唱えていても仕方がないので、
タンスを開けてチェシャ猫用のタオルを数枚引っ張り出した。
 
部屋を水浸しにされる前に猫の頭を拭かないと。
タオルの用意とそれにドライヤー。逃げられる前に捕まえなきゃ。
でも、ドライヤーは結構好きみたいだけど。
 
ついでに洗ってしまおうか、悟られないようにそっと抱き上げて。
 
 
「ただいま、アリス」
 
 
ほら、私の猫が帰ってきた。


     
雨の日には猫を捕まえて <<アリスの思惑>>
  ++++++++++++ シャンプー再来です。 動物は悟られない内に捕まえるのが一番です。